Glymphatic systemとDTI-ALPSについて

はじめに

 Alzheimer DiseaseAD)は、認知症の最も一般的な原因であり、高齢者の認知症の60%以上を占める。また、日本のみならず世界で最も多い認知症である。ADの原因物質の一つにアミロイドβが挙げられる。アミロイドβは通常、脳内から短期間で分解・排泄されるが、排泄されずに脳に蓄積され健康な神経細胞にアミロイドβが沈着する。沈着したアミロイドβの出す毒素で神経細胞が死滅して情報の伝達が難しくなり、脳が委縮し、ADが進行することとなる。

 本記事では、ADの原因物質の一つであるアミロイドβの排泄に深く関わっていると考えられている「Glymphatic System」とその評価方法であるDTI-ALPSについて紹介する。

 

Glymphatic Systemについて

 Glymphatic systemは、脳毛細血管とアストロサイトとの間に形成された血管周囲腔を排泄経路とするとされている、脳老廃物の排泄システム概念であり仮説である1)。中枢神経系におけるリンパ管の役割を果たすと考えられている2)

 アミロイドβの排泄経路としては、Intramural periarterial drainageIPAD)も仮説として提唱されているが、今回の記事では、近年注目されていて様々な知見が得られている、Glymphatic systemの詳細を紹介する。

 脳脊髄液は脳表から脳内へと続く太い血管の周囲に存在する空間(血管周囲腔)に沿って脳組織の中に入っていき、それは間質液として組織に染み込む(Fig.12)。老廃物を含む間質液は静脈側の血管周囲腔を通って脳脊髄液に戻るのでリンパ管がなくとも老廃物を排泄することが可能である。

 

Glymphatic system、アストロサイト、アクアポリン4、AQP4、血管周囲腔

Fig.1 Glymphatic systemの模式図 文献[2]より改変

 

 

 脳脊髄液は動脈血管周囲腔を通って脳実質に流入する一方、間質液は静脈血管周囲腔を通って脳実質から排泄される。このような脳脊髄液の循環を制御する仕組みはGlymphatic systemと呼ばれ、その制御に関わるグリア細胞としてアストロサイトが知られており、以下のような役割を持つ。

アストロサイト;グリア細胞の一種。神経細胞の形態と機能を支えていて、神経細胞の活動を主導的に制御する役割も果たしている。

アクアポリン4AQP4):水透過性組織で血管周囲や軟膜下のアストロサイト足突起に存在する特殊な水輸送チャネル。ヒトの中枢神経系において最も豊富な水チャネルである脳内の体液運動、水移動にとって重要な働きを担っている。

 

 

  ADは高血圧等の生活習慣病が発症に関与していることが報告されているが、このことは動脈硬化を背景に動脈拍動性が低下することでアミロイドβを含む老廃物の排泄遅延が疾患原因と考えられている3)

 また、Glymphatic systemは動脈圧が駆動力とされており4)AD患者では健常者に比べて、血管周囲腔体積が広く、脳間質自由水量が多いことが分かっていて、さらに血管周囲腔方向の水の拡散能が低い5)。これは、動脈圧の低下を示していることから、脳内の老廃物を洗い流すための脳脊髄液が滞っており、Glymphatic systemの機能が低下していることを示している。

 

Glymphatic systemの機能評価:DTI-ALPS

 先述のとおり、Glymphatic system機能に血管周囲腔方向への水の拡散能が相関すると考えることができる。その評価方法として、Diffusion Tensor Image Analysis along the Perivascular Space DTI-ALPS)という非侵襲的な手法がある6)

 まずはDTIについて紹介する。DTIは拡散強調画像(Diffusion Weighted ImageDWI)の1種である。DWIは拡散を等方的に評価しているのに対して、DTIでは異方性(拡散の方向)を加味して評価している。これは生体内での水分子は細胞膜によって自由な拡散が妨げられること、微小な血流の影響を受けることで拡散しやすい方向と拡散しにくい方向が存在する(Fig.2)ことを考慮するためである。

 

 

DTI、tensor、異方性、拡散方向

Fig.2 神経線維内での拡散の様子  水分子が生体内で自由拡散ではなく、ある程度の制限を受けており方向によって拡散の程度が異なることを表す。

 

 

 DTIDWIと比較して生体内での拡散をより表現することができるが、撮像時間が長くなってしまう。DWI撮像時には、拡散を検出するための双極傾斜磁場(Motion Probing GradientMPG)を印加する必要があるが、DWIはそのMPGの印加が3方向で十分なことに対して、DTIでは少なくとも6方向以上の印加が必要となる。

 DTI画像からは異方性の強さの指標である、FAFractional Anisotropy)値を算出可能である。脳腫瘍、多発性硬化症(MS)、筋委縮性側索硬化症(ALS)、てんかん、頭部外傷(TBI)等はFAが低下する症例として報告されている7)

 DTIを用いると神経線維束を描出する、Tractographyという画像も作成できる。詳細は以下ページに記載している。

トラクトグラフィー(Tractography)について

 

 

 DTI-ALPSはそのDTIから、側脳室体部レベルの白質での血管周囲腔方向の拡散の程度の指標として血管周囲腔方向の拡散能を血管周囲腔および主な白質繊維の走行方向と直交する方向の拡散能との比(ALPS index)を求めることにより、評価する方法である。

 

 

 

 

ただし、mean(Dxxproj, Dxxasoc):血管周囲腔方向の拡散率+白質繊維構造に起因する拡散率(繊維走行と垂直方向)

    meanDyyproj,Dzzasoc):白質繊維構造に起因する拡散率(繊維走行と垂直方向)

 

 通常、脳内水分子の血管周囲腔方向への拡散の評価は白質繊維の拡散の影響が大きいために困難である。しかしながら、側脳室体部レベルにおいて投射繊維や連合繊維といった大きな白質繊維と直交する方向であれば計算によって、白質繊維の拡散の影響を受けずに血管周囲腔方向への拡散の評価が可能である(Fig.3)。

 

 

DTI、tensor、異方性、拡散方向

Fig.2 DTI-ALPSの概念

 

    1. 側脳室体部レベルのMRI画像上で水平に走行する血管を示す。
    2. 側脳室体部レベルの磁化率強調画像を示す。血管が脳実質を左右方向(X軸)に走行していることを示す。
    3. 磁化率強調画像にDTIのカラーマップを重ねた画像で投射繊維(Z軸)、連合繊維(Y軸)皮質下繊維(X軸)の分布を示す。投射繊維、連合繊維、皮質下繊維それぞれを含む領域に関心領域(Region of Interesting)を配置し3方向それぞれの拡散能を測定する。
    4. 血管周囲腔方向と各繊維方向の関係を表す模式図。文献[6]より引用

 

 

 ALPS indexが低いことは、血管周囲腔方向への拡散能が低下していて、Glymphatic system機能が低下していることを示す。

 

DTI-ALPSと疾患

 Glymphatic System機能を評価することによって疾患を評価した研究を紹介する。

 AD:健常群、軽度認知障害(Mild Cognitive ImpairmentMCI)群、AD群を対象とした評価においてALPS indexMMSEMini-Mental State Examination)スコアと有意に逆相関し、また年齢と有意に相関した6)

 

 Parkinson DiseasePD):健常群、軽度認知障害を呈すPD群(MCI-PD群)、認知症を呈すPDPDD群)を対象とした評価において、健常群と比較してMCI-PD群およびPDD群はALPS indexが有意に低下していた。また、ALPS-indexは血液検査の結果と逆相関していた8)

 

 2型糖尿病:健常群、病歴が10年未満の被検者、病歴が10年以上の被検者に群分けして評価を行ったところ、3群間で有意差が確認でき、健常群と比較してALPS indexは低下していた9)

 

 特発性正常圧水頭症(iNPH):健常群、iNPH群、pseudo-iNPH群の3群間でALPS indexは有意差を示した。また、iNPHの診断基準として用いられているEvans indexと脳梁角の計測よりもALPS indexが高い診断能を示した10)

 

 脳小血管病:modified ALPS indexmALPS index)を用いて評価した研究。微小梗塞や微小出血の数とmALPS indexは相関していた11)

 mALPS indexALPS indexとの差異はROIの選択で、計算方法は同様である。

 

おわりに

 DTI ALPSは比較的最近の解析方法ではあるが、撮像の簡便さや解析の簡便さからも論文数は増加の傾向にある。上記の通り様々な疾患の治療効果判定に対しても利用されていることからも今後は、治験等で薬剤の治療効果判定・動態を確認する際にも利用されることが期待できる。

 

参考文献

  1. Engelhardt B Vajkoczy P, Weller RO. The movers and shapers in immune privilege of the CNS. Nature immunology 2017; 18: 123-131.
  2. Jeffrey J. Iliff, et al. A Paravascular Pathway Facilitates CSF Flow Through the Brain Parenchyma and the Clearance of Interstitial Solutes, Including Amyloid β. Science Translational Medicine 4, 147ra111(2012)
  3. Saito S, et al : New therapeutic approaches for Alzheimer’s disease and cerebral amyloid angiopathy. Front Aging Neurosci 6 : 290, 2014.
  4. IliŠ JJ, : Cerebral arterial pulsation drives paravascular CSF-interstitial ‰uid exchange in the murine brain. J Neurosci 2013 ; 33 : 18190-18199
  5. Kamagata K., et al : Association of MRI Indices of Glymphatic System With Amyloid Deposition and Cognition in Mild Cognitive Impairment and Alzheimer Disease. Neurology 2022;99:e2648-e2660.
  6. Taoka T., et al. : Evaluation of glymphatic system activity with the diffusion MR technique : diffusion tensor image analysis along the perivascular space (DTI-ALPS)in Alzheimer’s disease cases. Japanese Journal of Radiology(2017)35:172-178
  7. Wieshmann UC, et al : Reduced anisotropy of water diffusion in structural cerebral abnormalities demonstrated with diffusion tensor imaging. Magn Reson Imaging 17:1269-1274, 1999
  8. Chen HL, et al. Associations among cognitive functions, plasma DNA, and diffusion tensor image along the perivascular space (DTI-ALPS) in patients with Parkinson’s disease. Oxid Med Cell Longev. 2021;2021:4034509.
  9. Yang G, et al. Evaluation of glymphatic system using difusion MR technique in T2DM cases. Front Hum Neurosci. 2020;14:300.
  10. Yokota H, et al. Diagnostic performance of glymphatic system evaluation using difusion tensor imaging in idiopathic normal pressure hydrocephalus and mimickers. Curr Gerontol Geriatr Res. 2019;2019:5675014.
  11. Zhang W, et al.  Glymphatic clearance function in patients with cerebral small vessel disease. Neuroimage.  2021;238:118257.

 

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